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おくのほそ道 蕎麦紀行

1 2 松尾芭蕉の好物は、蒟蒻、油あげ、豆腐、納豆、とろろ汁……。

江戸の芭蕉庵で自炊していたときの主食は、菜飯、麦飯にとろろ汁、里芋の茎を日干した芋茎(ずいき)を炊き込んだ粥飯、芹飯など。今でいうと、菜食主義というか粗食。淡泊であっさりした味わいや香りを好んだ。江戸の蕎麦切りも大好物であったことは想像に難くない。

『おくのほそ道』で私が不思議に思うのは、飲食に関する具体的な記述がほとんどないこと。歩き、食し、寝るという旅の本質は、商人や武士はもちろん、俳人にとっても変わりはないはず。各地の俳句の弟子と後援者が頼りであった芭蕉の漂泊の旅で、私は、芭蕉がどこでなにを食したのかということに、大きな関心がある。

「好んで酒を飲むべからず。饗応により固辞しがたくとも、微醺にて止むべし」
これは、旅先で歓待されることが多かった芭蕉の『行脚の掟・道中心得十七ヶ条』として伝えられている。「すすんで酒を飲むのは好ましくない。宴会で断りがたいときも、ほろ酔い程度でやめておくべきです」と述べている。

日頃、清貧に甘んじ、粗食の暮らしむきをいとおしみ、枯淡としていた芭蕉。その一方で、もともと人一倍美食に通じた美食家でもあった。でも、晩年の芭蕉は、胆石や痔などの持病があった。胃腸が弱り、激痛のため、食も細りがちであった。飲酒については、とくに気を配っていたに違いない。それだけに、自戒として「微醺にて止むべし」と心に深く刻んでいたのであろう。

元禄2(1689)年春、弟子の曽良は、芭蕉の旅に同行することが決まると、行路の名所旧跡、歌枕の地を詳細に調べ、道案内をつとめる。メモ魔の曽良の『旅日記』から、日付や天候、宿泊先の手配はもちろん、お金の管理もして師の旅を支えていたことが読みとれる。

『旅日記』の飲食の記述で目立つのは、酒・蕎麦・饂飩。やはり、芭蕉は蕎麦好きだったことがわかる。芭蕉は、行く先々で土地の蕎麦を食したのだろうなあ。そう思うと、芭蕉がより身近に感じられる。芭蕉のあとを追って私も、「おくのほそ道 蕎麦紀行」に発ちたい衝動に駆られる。

(「江戸ソバリエ倶楽部通信」第4号掲載 200778日発行)

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